2000年4月はじめ、台北から台東へ行くために台北の友人の家からタクシーで国内線の空港である「台北松山空港」に向かった。その日の夜台東知本で行われる陳昇のコンサートをみるためです。
家をでるとき「"松山空港"って中国語でなんて発音するの?」と友人にたずね、タクシーを拾うまで教えてもらった「そんさんじーちゃん」を口の中でもごもご繰り返してた・・。
私の印象では、台湾というところは結構英語が通じると思うけど、タクシーではあまり通じない。だから、台湾でほとんどの会話を英語ですませてしまってる私も、タクシーに乗るときだけは中国語を話すようにしている。というか、タクシーに乗るときにしか中国語を話すチャンスがないのだ。こう言うと、みなさんは不思議に思うかもしれないけど、友人達との会話では私の初歩中国語ではいつまでたっても話が盛り上がっていかないから、結局英語が便利ということになってしまう。(若い人達は程度の差はあれ、ほとんどカタコト以上の英語は話せるのだから。)バスやセブンイレブンでは話す事なんてないし・・・あんまり買い物しないし・・というわけで私のカタコト中国語が活躍するのはタクシーの中だけになってしまうのでした。(ま、それでも大概は「○×まで」とか「ここを左に曲がって」とか「ここで停めて下さい」とかその程度の会話しかしないんですけど)
さて、さっきの続き。大通りに出て一台のタクシーを停め、乗り込む。さっきまで何度も口の中で練習してた「ちんだおそんさんじーちゃん(松山空港までお願いします)」と告げる。すると運転手さんが、私の発音を繰り返し(訂正したか確認したか?)振り返って
「Are you
Japanese?」といきなり英語で話しかけてきた。
「Yes ,,how do you know
that...?」ま、発音を聞けばバレバレなんだろうな、とは思ったけど。案の定、「しゃべり方でわかりますよ・・・空港までですね?で、これからどちらへお出かけですか?」などととても流暢な英語で話してくる。
台北ではずいぶんタクシーに乗ったけど、英語を話す人には初めてあたった。こちらも下手な英語ながら饒舌になる。
「英語を話すタクシーの運転手さんには初めて会いました。あんまりいないですよね?だからいつも下手な中国語で結構難儀してるんですよー。これから、台東に行くんですけどね。」
なんだかんだと世間話をするうちに、陳昇のコンサートに行くんだと言ってみたらどんな反応が返ってくるか興味がわいた。
前に、ウーバイのコンサートの後、深夜に乗ったタクシーの運転手さんとウーバイ話で盛り上がったことを思い出した。そのときは、もちろん全部中国語での会話だったけど運転手さんの中国語は絵に描いたような台湾なまりのきついいわゆる「台湾国語」というものだった。運転手さんもウーバイファンらしく「ウーバイは最高だ」とかなんとかいいながらカセットテープでウーバイをかけてくれたっけ。台湾国語の運転手さんと台湾国語でうたうウーバイはイメージピッタリ。
このソフィスティケイトされた英語を話す運転手さんはどうだろう?陳昇とか聞くのかな?
「実は今夜、台東の知本温泉で陳昇のコンサートがあるんですよ。で、それを見に行くんです。」
「え?陳昇?日本人なのに陳昇を知ってるんですか?どこでCDを買うんです?日本にも売ってますか?」
「日本にも売ってますけど、ほとんど台湾に来たときに買います。すごーーいファンなんですよ。」
「でも陳昇の歌ってあんまりインターナショナルじゃないでしょ?どっちかって言うととても台湾ローカルじゃないですか?」
「まあ、そうですけどね、でも彼の音楽はいいと思います。運転手さんも聞きますか?」
「もちろん。ところでお客さんは"アユィー
"って知ってますか?」
「え?"アユィー
"??"ほあんりえんゆぃー"のことですか?もちろん知ってますよ」
"ほあんりえんゆぃー(黄連ゆぃー)"というのは陳昇と一緒に「新宝島康楽隊」というユニットを組んで一緒に活動していたミュージシャンの名前で、"アユィー
"という愛称で呼ばれている人です。(残念ながら現在は陳昇とは別々の活動をしていて、あまり音楽の方面では仕事をしていないようです。)陳昇のファンなら誰でも知ってる人。
「新宝島康楽隊のCDも全部聞きましたし、年末の陳昇のコンサートでは久しぶりにゲストで出てきてすごく嬉しかったし。で、"アユィー
"がどうかしましたか?」
「びっくりしたなぁ・・・日本人の陳昇ファンを乗せるなんて。僕は"アユィー
"の友達なんですよ。先週も一緒に食事したんです。今度、ゆっくり台湾に来るときあったら、連絡して下さい。会えるようにアレンジしてあげますよ。」
この話には私もびっくり。
いつから知り合いなのかとか、彼は最近音楽はやってるの?とか、いろいろ話しながら盛り上がってたらあっと言う間に空港に着いてしまった。降りるときに、「じゃあ、次回、連絡して下さいね」と電話番号をもらった。
台東について陳昇ファンの友人達たちにこの出来事を話して聞かせた。
「へえーそんな偶然ってあるもんなんだねー」
とおもしろがってくれたけど、私は「実際"アユィー
"に聞いてみたら、「誰?それ?そんな友達いないなあ」なんて言われたりして・・・などと思ってもいた。
それから数カ月後、ひょんな巡り合わせで、思いがけず実際に"アユィー
"と話をする機会があった。
タクシーの運転手をしてる英語の上手な友達がいるかどうか聞いてみた。
ビンゴ!
名前も同じ。
はははー。
本物だった。"アユィー "もおどろいてた。
というわけで、タクシーはおもしろい。