ソウル深夜のタクシー |
ソウル郊外の安山で、友人と食事してビールを飲んで楽しく過ごしていたら11時近くになっていた。「新村(シンチョン)」の宿までは電車で帰る。さて、終電は何時なんだろうかとちょっと心配になりながらも、とにかく来た電車に乗ってソウル市内へ向かう。 安山から新村までは、2回乗り換えだなどと路線図を確認したりしていたけど、やはり甘かった。途中の「新道林」で無情にも電車は終わってしまった。あ〜あ。 他の乗客と一緒に駅舎の外にとぼとぼと出る。外に出てみるといずこも同じ終電後の風景。タクシーを拾おうとする人たちであふれていた。サラリーマン風のおじさん達が多いようだ。私も、残された新村への道はタクシーだけだ。 日本だとこういう場合、タクシー乗り場に長蛇の列というのが普通だと思うけど、ここにはそんな列などは存在していないようだった。話には聞いていたけど・・・。駅前の広い道路にはタクシー待ちの人がばらばらにあふれ、それぞれが思い思いに流してるタクシーを停めている。 タクシーもタクシーで、運転手さんが駅前に出ていって「インチョン(仁川)!」(けっこう長距離)とか叫んで客引きしてる。かなり騒々しい。
この状況で、さて私は不慣れな日本人旅行者。無事にタクシーで帰れるのだろうか・・・不安がつのる。真夜中だ・・・。
ボーッと眺めていては朝まで自分の順番は回ってこないだろう。道路に出てみる。さっき観察していて大体のやりかたは分かった。走ってくるタクシーに手を挙げて停めて、窓越しに自分の行き先を言ってるようだ。韓国のタクシーには相乗りという習慣があるのは知っていた。サラリーマンのおじさん達は空車だろうと人が乗っていようと関係なしに手を挙げて停めている。タクシーの方も、お客を乗せてても停まっている。行き先が同じなら乗れるということのようだ。
待ってる人も多いが、タクシーも沢山来る。 勇気を出してタクシーを止め「シンチョン!」と叫んでみる。何台か停めたけど、みんな「ダメダメ」というような顔をして走り去っていく。 方向が違うんだな、と思っても見たが、「わたしなにか悪いことしたかな?」と思ってしまうくらい,乗せてくれない。中には空車なのに走り去るタクシーもいた。(車庫帰りの途中だったのか???)
だんだん心細くなってくる。このまま朝になっちゃったりして・・・。
18の頃、初めて新宿で終電がなくなってタクシーに乗ろうとした時のことを思い出した。歌舞伎町の前の靖国通りで友達と2人でタクシーを拾おうとしたけど空車がばしばし通るのに、私たちの前にはどれも止まってくれなかった。やっと停まってくれたタクシーの運転手さんに「誰も停まってくれなかったんですぅ」と話し掛けると「女性客は長距離乗らないから、乗せたくない運転手が多いんだよ」との話で憤慨した。あの頃は今と違って景気よかったから。タクシーもお客選べたのかな?
で、ソウルの真夜中である。 何としてもタクシーを止めなければ!半ば悲しくなりながら、もう1台、手を挙げて走りよる。空車のようだ「しんちょん!!」と叫んでみる。「のれ」と手振りする初老の運転手さん。「やった!!」これで帰れる〜〜〜。
助手席に乗る。どうして助手席に乗ったかというと、以前街で見かけたタクシー、女性一人客はよく助手席に乗っていたようだったから。でも、そういう習慣があるのかは、ほんとのところはよく分からない。よく分からないけど、この後相乗りで酔っ払いとか乗ってきたら嫌だから、この場合はやっぱり助手席だ。 走り出してから改めて行き先を告げる。「シンチョン」。発音の仕方で私が韓国人でないことはばればれかもしれない。真夜中だし、一人だし、用心にこしたことはないと思って極力黙っていた。クールにしていた方がより安心できるような気がしたから。 しばらく走ると、「永登浦!」と叫んだおじさんが乗り込んできた。同じ方向なのだろう。おじさんは運転手さんといろいろ話している。どうやら電車が無くなってまいったよ。という様な事を話してるらしい。運転手さんも、いい感じの人らしいが、私は言葉がよく分からないので会話には加わらない。そうこうするうちに永登浦に着いたらしい。おじさんが降りていった。運転手さんは今度は私に話し掛けてくる。 「外国人ですから、韓国語はあまり話せません(あえて日本人とは言わなかった。まだちょっと警戒していた)」と言うと、「ああ。そうでしたか。韓国人かと思ったけど、しゃべらないからおかしいと思ったんですよ。韓国人と日本人は似ているから区別できない。中国人なら直ぐ分かるけどね。」とか何とか言ってた。運転手さんは愛想がよく片言の日本語もしゃべってくれたりした。私の緊張も少しほぐれてきた。 「行き先は新村でいいんですよね。どのあたりまでですか?」 「新村駅前でお願いします」 「新村には国鉄と地下鉄2つ駅があるけどどちらですか?」 「あ、地下鉄です」 そして私の「しんちょん」の発音がおかしかったらしく、(この韓国語は結構難しいのです。)正しい発音を教えてくれて、何度も練習させられた。でも運転手さんの発音と自分の発音のどこが違うのかすら分からなかった・・・。
今度は、若いお兄さんが3人乗り込んで来て、すぐ新村のロータリーに着いた。無事ついてよかった。それにいい運転手さんでよかった。韓国一人旅で寂しくなったら、タクシーに乗って運転手さんとおしゃべりすればいいな、とまで思うほどだった。 12時半をまわってたけれど、新村はまだまだ人通りも多く、明るかった。なんだかほっとして旅館に帰ってみると、ラブホテルと化していた・・・・・。あらあら、平和だなあ。 |
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